大人の少年で、僕はありたい。

コンサルのお仕事やっています。 このブログには、自身の経験からくる「大学時代」と「就職活動」、そして10代の頃に知りたかった社会のリアルを書いています。

浅生鴨『アグニオン』を読んで 〜人間の「感情」ってなんだろう〜

 

浅生鴨さんの書いた『アグニオン』を読みました。

彼は元NHKのツイッター広報担当だったということで、有名な方。この本はその浅生鴨さんのデビュー小説です。

あそうかも(@aso_kamo)というアカウントでツイッターをやっていらっしゃる方です。

僕は最初この方とこの本を紹介してもらって知ったのですが、最初は「あそう かも」さんだと知らずに「あ、そうかも」だと思って、なんだ?と思ったといういちばん最初の印象です。笑

 

さて、アグニオンの感想を。

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まず帯の「この感情は、誰にも奪わせない」という言葉が、刺さりますよね。

この本だけではないのですが、やっぱりリアルな本がいいのは、装丁とか、デザインとか、帯のコピーとかも含めて、やっぱり面白い本は見た目から惹かれるんですよ。それはもう間違いない。

僕はこの本を紹介されたその場でアマゾンで購入したのですが、もし本屋に行って目があったら、即買いだと思います。

 

SF小説です。ファンタジー的な要素も兼ね備えたSF。サイエンス・フィクションです。

僕は大学で物理を専門に学んでいるので、もともとこういったSFの物語は好きなんです。理学部にいる人って、大半がそうじゃないかと思ったりもします。

幼い頃に見たアニメとか漫画とか、そしてSF小説とかを見て、宇宙に憧れたり科学に憧れて、その強いイメージとモチベーションのまま研究者になって、という人も結構いるはずです。

 

それでいうと、僕の中学・高校時代の友人に一人、変わった奴がいます。

彼は中学の頃から「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(Back to the future)が好きで、中学時代はずっとその話ばっかりをしていた。Time Machineがどうのとか、仲間内でそういう話ばっかりをしていて盛り上がっていました。ちなみに僕が宇宙とかサイエンスに興味を持つようになったのはその頃。

高校に上がる頃になっても、「俺はああいう世界観をつくりたいんだ」と言い続けていて、大学は工学部に入りました。情報系の学科だったはずです。

まあ彼も大学初期の頃は、学生団体とか学生活動系、いわゆる”意識高い系”と呼ばれるようなことをしていて、もともと活動的だったもんなぁ。とか、そんな風に思っていました。

ここまでは、まあいいとして。

大学3年に上がる頃でしょうか、彼はいきなりアメリカのスタンフォード大学に留学に行きました。「トビタテ留学」の一期生ですね。孫正義に憧れて、とかなんとか言って、飛び出して行った。すごく優秀。笑

そこから、なぜかシリコンバレーで働いて、いつのまにか起業までしちゃっていて、気づいたらVR(バーチャル・リアリティのこと)の分野で結構有名になったんですね。その分野では、知る人ぞ知る、みたいな。

いまは何をやっているんだろう。ほとんどは東京にいて、大学は行っていなくて、いろんなことをしている。

今年彼が帰省してきたときに会って話をしました。

「お前、何がしたいの?」

と聞いた時に、彼は

「俺は前から、バック・トゥ・ザ・フューチャーに憧れいて、そういう世界にインパクトを与えることをしたいんだ」

と言ったんです。

 

純粋に、ああ、すごいなと思いました。

彼はずっと、そういった強烈な憧れとイメージを抱いていて、ひとつの映画がきっかけに、その世界の扉を叩いた。

成長していくにつれて、IT、特にVRという最新のものに興味を惹かれ、そして孫正義さんとか、そういった偉大な方々に学びを受けるようになった。

SFというのは、特に優れたSFというのは、一見非現実的な世界なんだけれども、その世界に憧れた少年たちが大きくなって、科学者になって、幼い頃に見たその世界を実現していく。ある意味ではその先駆けであり、バイブルであり、そういった特別な存在なんだなぁと思うんです。

 

なぜ、SFで描かれた世界観が実現されていくかというと、それはもう間違いなく、リアルな科学に基づくものだからです。

優れたSFというのは、優れた科学に基づくものでなければならない。

それに、人間の偉大な想像力が掛け算されたものが、SF小説なんだと思うんです。

 

 

人間の「欲望」そして「感情」とはなんなのか?

この『アグニオン』という小説で描かれているのは、人間が元来持っている「感情」についてです。

人間の「感情」とか、あるいは「欲望」といったものが、この世界にずっと争いをもたらしてきた。

だからこそ、その人間の持つ「感情」を排除し、「善き人」(それがアグニオン)となれば、人類にとってより良い世界が訪れるであろう、という大枠の考え方です。

 

舞台は、架空で描かれた近未来的な世界。

主人公が、宇宙の中の一つの星に住んでいる、というところから物語は始まって行きます。選ばれた主人公が宇宙に旅立ち、冒険をする中で、人類を管理する側の組織に近づいていって、というストーリー。

架空の世界の話なので、最初は少し意味がわからない。人の名前も、場所や物の名称もちょっと異次元なもので、理解しづらい部分があって、それがまた近未来的な世界観をうまく表現している。

その中でも違和感なく読み進めていけるのは、異次元な世界なのにもかかわらず、ものすごく丁寧に細かく、かつリアリティを持ってひとつひとつを描写しているからで、実際に異次元の世界に行ったような感覚で、同じ風景を見ている気がしました。

 

物語の中心にあるのは、あたかもAI(人口知能)を表現したかのような、全知全能のシステムである「有機神経知能」と呼ばれるもので、それによって全ての世界が高度に支配されている、という未来の社会です。

本当に100年先に、僕ら人類はこの世界を迎えるんじゃないかと思うくらいに、現実的な描写だと思うんです。

実際はいま現実に起こっていることではないので、「現実的」だという言葉が適切かどうかはわからないですが、少なくとも100年後の未来を考えた時には、現実性を持っていると言えるのではないでしょうか。

 

その「有機神経知能」によって、その世界に住んでいる全ての人間の「欲望」が管理されている。「欲望」を口にした者は、犯罪者として扱われる、というもの。それによって着実に、争いのない平和な、人類にとって理想的な社会に近づきつつある。でも、まだ完璧ではない。。

その「有機神経知能」を用い、全ての人間の「感情」を排除するための最終計画が発動し、選ばれた人間のみがそれを管理する側に。そうでない圧倒的多数の人々は、感情と欲望を持たない、善き人として生きていく。

主人公とその仲間たちは、果たしてそれが本当に人類のためになるのか。人間の感情を抜きにしたならば、それはもう人間と言えないのではないか。たとえ争いがあったとしても、欲望が人類をここまで発展させてきたのではないか。

そんな葛藤を抱えながらも、その最終計画を阻止するために、、という流れで物語は進んでいきます。

 

総じて、すごく面白かったです。

367ページという長編小説ですが、1日で読みきりました。(読み終えたら夜中の3時前になっていたw)

今後、アニメや映画として、まあどこまで原作通りに描けるかはわからないけれども、なんらかの形でもっと広まるのではないかな、と思います。

 

近未来のSFに描かれる哲学

部分的な話をすると、所々に哲学的な要素だったり、そもそも人間ってなんだ?とか、そもそも感情って良いものなのか?という疑問と葛藤が描かれていて、深く考えさせられるものだと思います。

 

例えば、人間の肉体から「感情」を分離していく。そこから例えば「欲望」を取り除いたとすると、どれも同じような人間の感情になるのではないか。

ある人の肉体に、欲望を取り除かれた別の人のものだった「感情」を入れたとして、そしてそれは誰の感情を入れたとしても本質的には同じだったら、それは同じ人になるのか?

違う気はするけれど、原理的には同じだとするならば、そこに生じる違いはなんなのか?

じゃあ、僕ら人間がそれぞれを生きている今、違いをつけるのは「感情」だけなのか?とか。

 

あるいは、そもそもこの小説の根幹を成している人間の「感情」、特に「欲望」に関してだけれども、「欲望」があることで争いが生まれるなら、人間の全体幸福のためには「欲望」は抑えるべきで、あるいはこの小説のように管理されるべきもので、果たしてそれは悪なのだろうか?

そもそも人類全体の幸福のために、他人の欲望を抑えるということ自体が、「欲望」なのではないだろうか。

僕ら人間は、もっと良くしたいとか、もっと快楽を得たいとか、そういった「欲望」があるからここまで進化してきたのだと思うけれども、果たしてそれは本当か?とか。

 

人間の「感情」から「欲望」を抜き去って、原理的には同じような感情が残ったとして、それは多様性には反していないのか?

人間は多様性があるからここまで進化し、発展してきたのではないか。

それなら原作にあるように、いくつかの多様性だけ残して、それ以外は排除してしまってもよいのだろうか?
5つくらいの感情を残したとしたら、人間はそもそも5つのパターンにしかならないのだろうか?とか。

 

人間の描く「欲望」と、喜怒哀楽を感じる「感情」と。

そういったものは、僕らにとって、どんなものなんだろう。

そう遠くない未来に、複雑になりすぎた僕ら人間社会をより効率的に判断するAIが入り込んでくるのは間違いないわけで。

それは本当に、人間全体にとって良いものなんだろうか。”全て”を合理的に管理していくことで作られる世界は、作り出す側そして管理する側の一部の人にとってのみ「良い社会」ということなのではないだろうか。

僕は本を読みながら、そんなことを考えていました。

 

タイトルの『アグニオン』とは「善き人」のことです。

一体、僕ら人間にとっての「善き人」というのは、なんなんだろうか。

 

ひとつ大きなメッセージを、僕らに問うている。そんな気がしました。

 

長くなってしまいましたが、ここまで読んでくれて、ありがとう。

この本を紹介してくださって、ありがとうございます。

興味がある方は是非、手にとってみては。

アグニオン

アグニオン

 

 

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